輸入盤のビニールを破くと、その国の空気が部屋に広がるようだ
かなり昔、音楽雑誌にこんなフレーズが載っていて、今も心に染みついている。
真新しい輸入盤の封を切るときには、いつもこれを思っていた。
レコードに針を落としたら、歌詞カードなんかないから、レコードジャケットを飽きもせずに眺めながら、音に耳を傾けていた。
そして気に入ったジャケットは部屋に飾る。
今でも覚えているのはエルヴィス・プレスリーの「That's All Right 」が収録されたサン時代のレコードだ。
時は流れ、音楽はCDの時代を経て、ダウンロードやストリーミングで聴く時代になった。
私もふだんはiPodに詰め込んだ音楽を楽しむことがほとんどだ。
最近、話題のSpotifyも興味深いし、使ってみたいと思っている。
しかし、そんなことに腰が重くなるにはワケがある。
やっぱり真新しい音楽を聴くときには「ビニールの封を切りたい」のだ。
その儀式をやっておかないと、聴いた気がしないというーおじさんとは困った不便な生き物だ。
先日、エルヴィスのRCA時代のほぼ全曲を収録した60枚組のCDボックスを購入した。
狭い部屋にはなかなか場所を取るシロモノ。
封を切って、箱を開ける。
壮観だ。ワクワクする。
スピーカーから「Blue Suede Shoes」が流れる。
そして私はやっぱりジャケットを手にして、ソファに横たわる。
音を耳で聴くだけではなく、ジャケットに手で触れ、目で楽しんでこそ音楽だと思ってしまう。
CDがぎっしり詰まった箱の重みさえ、愛おしく思う。
そして、おじさんとは困った不便な生き物だと、また思うのだ。